治療が必要とされる歯並び
上下の歯が適切にしっかりと噛みあっていない状態、すなわち歯並びが悪い状態であることを不正咬合(ふせいこうごう)といい、この場合には矯正治療が必要になります。
「歯並びが少しくらい悪くても問題ない」と思う方もいるかもしれませんが、歯並びの悪さは見た目が悪いだけでなく、食べ物を噛む機能や言葉を正しく発音する機能が低くなっています。
以下のような状態になっている不正咬合は、一つのお口に対して1種類だけ該当する場合もあれば、2種類や3種類なども該当する場合があります。
どのような治療が適切かどうかは、その症状ならびに患者様の口腔環境によって異なります。
- 歯並びがデコボコである
- 上の歯が前に突出している
- 下の歯が前に突出している
- 歯と歯との間に隙間がある
- 口を完全に閉じられない
- 噛み合わせが深い
歯並びがデコボコである
歯列がデコボコしていたり、歯が捻じれて生えていたりする歯並びを、「叢生(そうせい)」あるいは「乱杭歯(らんぐいば)」と言います。
日本では可愛いと言われチャームポイントともなる八重歯も、叢生に数えられます。
- 叢生の原因
- 歯と顎との大きさが不均一のために起こる不正咬合で一般的に、顎の幅が狭いと起きやすくなります。
2011年に行われた厚生労働省の調査結果によると、日本人の不正咬合では「叢生」が最も多いということでした。 近年に生まれた世代は顎が細い方が多いため、特に起きやすくなっています。
- 叢生の悪影響
- 歯が重なりあって生えているため、口を開けたときに見える歯並びの見た目がよくありません。
また、歯磨きの際、歯ブラシが届きにくい部分ができてしまい、磨き残しが多くなり、そこから虫歯よび歯周病を発症しやすくなります。
上の歯が前に突出している
上顎にある前歯が前傾状態で生えていたり、上顎にある歯並び全体が唇の方へ突出している歯列を「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」と言いますが、いわゆる「出っ歯」あるいは「反っ歯」を指しています。 上顎前突は2種類に分類され、上顎が出ているケースと、下顎が引っ込んでいるケースがあります。
- 上顎前突の原因
- 上下の顎の成長バランスが均一でなかったり、指しゃぶりなどの悪習慣があったりすると上顎前突になりやすいと考えられていますが、明確な原因は不明です。 上顎が大きく下顎が小さい、歯の大きさといった遺伝的な因子による影響もあります。
- 上顎前突の悪影響
- 審美性への悪影響が大きく、笑ったときに歯茎が目立ってしまうガミースマイルになりやすくなっています。
さらに、唇が自然に閉じにくく、無理に力を入れて閉じようとするために口元にシワができやすくなります。
また、口を閉じにくいために口内が常に乾燥してしまい、歯周病が起きる原因にもなっています。
下の歯が前に突出している
下顎にある歯列が、上顎の歯列よりも前に出ている噛み合わせを「下顎前突(かがくぜんとつ)」と言います。
下顎前突は「反対咬合(はんたいこうごう)」あるいは「受け口」とも呼ばれ、不正咬合の一種です。
- 下顎前突の原因
- 下顎前突は、下顎の骨が上顎より極端に大きく成長したり、上顎が小さすぎたりすることで起こります。
指しゃぶりや舌癖なども下顎前突の原因と言われることもありますが、明確な原因は不明のままです。
上顎前突同様、はっきりと分かっている原因は遺伝によるものだけです。
- 下顎前突の悪影響
- 三日月様のような顔とからかわれるほど、見た目への影響が大きく、コンプレックスを感じられている方もおられるかと思います。
顎の機能的にも問題があり、上下の唇が閉じにくい、発音しづらいなどの悪影響があります。
また、噛み合わせも悪くなるため顎関節に負担がかかることにより発症する顎関節症になりやすく、顎関節に痛みを感じたり、口を開けるとカクカクと顎から音が聞こえたりするといった症状が起きることがあります。
歯と歯との間に隙間がある
歯と歯との隙間が広い歯並びを一般的に「すきっ歯」と言いますが、専門的には「空隙歯列(くうげきしれつ)」と呼びます。
生えているすべての歯と歯とに隙間があるケースと前歯の2本の間だけ広くなっているケースに大別され、後者は特に「正中離開(せいちゅうりかい)」と呼ばれます。
- 空隙歯列の原因
- 叢生同様、歯と顎との大きさのバランスが悪い、先天的に歯が小さい、余分な歯が埋まっているなどの原因が考えられます。
正中離開の場合は、上唇小帯という上唇と歯茎を繋ぐ筋が何らかの原因により異常をきたし、前歯2本のみが歯並びに影響を受けていることがあります。
- 空隙歯列の悪影響
- 空隙歯列は見た目の悪さだけでなく、咀嚼や発音など、歯が担っている役割を正常に果たせなくなっています。
子供の内は歯と歯との間に隙間があることが多く、これは後々生えてくる永久歯を収めるためのスペースなので、空隙歯列とは言いません。
しかし、成人になって永久歯が生えそろっている状態で、歯と歯とに隙間がある場合は、不正咬合と診断されます。
口を完全に閉じられない
奥歯がしっかりと噛みあっているにもかかわらず、前歯部分の上下に隙間ができている状態を「開咬(かいこう)」と言い、「オープンバイト」と呼ばれることもあります。
- 開咬の原因
- 長期的なおしゃぶりの使用、指しゃぶりや舌を突き出すなどの癖が、開咬を起こす原因であると考えられています。
これら以外では遺伝的な因子によることがありますが、口呼吸が習慣となっている場合にも開咬の原因となります。
口呼吸が原因の場合は、根本的な原因を解決するために耳鼻科での受診を促すこともあります。
- 開咬の悪影響
- 前歯には、食べ物を飲み込みやすい大きさになるよう噛み切るという役割があります。
しかし、開咬の患者様は、前歯部分の上下に隙間ができている状態であるため食事がしづらく感じます。
さらに、食事の際の奥歯が果たす役割が大きくなり酷使するため、歯がすり減ったり割れたりすることがあります。
また、開咬によりできた隙間から空気が漏れて不明瞭な発音になったり、口内が乾燥して歯周病になりやすくなります。
噛み合わせが深い
前歯の噛み合わせが深く、前歯の後ろに隠れてしまって下顎の前歯がほとんど見えなくなってしまう歯並びを「過蓋咬合(かがいこうごう)」と言い、「ディープバイト」と呼ぶこともあります。
- 過蓋咬合の原因
- 上下の顎の成長バランスの不均一さ、上顎の前歯の伸びすぎや奥歯の欠損などが、原因として考えられます。
また、頬杖をついたり、下唇を噛んだりするような習慣を持っていると、過蓋咬合が起きこりやすくなります。
- 過蓋咬合の悪影響
- 噛み合わせが深いため、下顎の前歯が上顎の前歯の裏側にある歯茎に触れて傷つけてしまうことがあります。
年齢を重ねるごとに、上下の前歯付近における骨吸収が著しく促進されることがあります。
また、上顎の歯列によって下顎の歯列を覆いかぶさっているため、顎の動きが制限されて顎関節症になりやすくなります。
時間の経過とともに噛み合わせもどんどん悪化するため、不正咬合はできるだけ早く治療を開始することが望まれます。