入れ歯、義歯を用いた治療
歯が抜け落ちた後の治療法には、その歴史が古い治療法として「入れ歯」による治療があります。
治療種上では「部分床義歯」や「総義歯」などがあり、「義歯（ぎし）」と呼ばれる場合が多くあります。
義歯とは本来、被せ物やインプラントも含めて抜けたり欠けたりしたものを補うものの総称です。
しかし、一般的な歯科治療の現場において、義歯＝入れ歯を指すことが多く、特に有床義歯あるいは部分義歯を「入れ歯」と呼ぶことが慣例となってきています。
明確な決まりはありませんが、当院では、患者様ご自身で取り外しができる（可撤性義歯）ものを入れ歯と分類して、「義歯」と称しています。
しかし、大多数の方は「入れ歯」と言われることにコンプレックスをもたれていますので、通常は「義歯」と呼び、分かりづらいなどの場合「入れ歯」と呼ぶようにしています。
- 上顎義歯
- 上顎（うああご）に装着する義歯を指します。
- 下顎義歯
- 下顎（したあご）に装着する義歯を指します。
- 部分床義歯
- 部分的に抜けてしまった歯に装着する義歯を指します。
- 全部床義歯
- すべての歯が抜けてしまった方が装着する義歯を指します。
歯を失った後の治療法として大きく分けると「義歯あるいは入れ歯」、「ブリッジ」および「インプラント」があります。
それぞれの治療法に特徴、メリットおよびデメリットがありますが、その中で最も治療費がかからず且つ短い治療期間で治療を完了できるのが義歯あるいは入れ歯です。
時には、インプラントおよびブリッジが適用できないから「入れ歯」という選択肢を選ばれる方もおられますが、患者様の口腔環境によっては、インプラントおよびブリッジよりも入れ歯が適している場合があります。
ご自身の健康状態および現在の口腔環境をしっかり把握し、ご自身の生活スタイルに合致した義歯あるいは入れ歯の選択をしていただくことが、残りの歯ならびに毎日の生活においても重要となります。
また、歯周病が進行してしまって骨が残っていない方や身体の疾患（糖尿病などで手術を伴う治療ができない）をお持ちの方などは、義歯による治療が患者様の口腔環境あるいはお身体の状態に対して適している場合もあります。
まずはカウンセリングを受けていただき、ご自身に合った最適な治療方法について検討して下さい。
無歯顎（歯がない）の高齢な方に対して、義歯を装着することによって、認知機能や記憶に関与する脳活動を活性化させ、これらの機能を維持できる可能性が示唆される報告例もあります。
すなわち、義歯をつけることによってしっかりと口を動かすことを行うことにより、アルツハイマー病を予防することができる可能性が分かったのです。
義歯使用者は約8年後も8割の人が生存していましたが、義歯不使用者では生存率が5割を下回っていました。
この結果からも明らかなように、歯を失った後に義歯を使うのと使わないのでは、命そのものにかかってくるということです。
義歯が必要な方は、しっかり装着することが大切であると言えます。
義歯（入れ歯）の注意点
使い慣れる
義歯（入れ歯）を初めて使用される場合、ほとんどの方が違和感を感じてしまいます。そのため、多くの方が義歯（入れ歯）を作製したにも関わらず、「必要性を感じない」、「使用してなくても支障がないから」などと、自己判断で使用を中止してしまっています。
しかし、入れ歯は天然歯の代わりに食べ物を噛み砕く役割だけを果たしているのではなく、歯茎の下の骨（歯槽骨）や周りの歯を衰えさせないためにも重要な役割を果たしている人工臓器と言えます。
「違和感を感じる」や「取り外しが恥ずかしい」などと思われる方も、以下の注意点に従って正しくご使用されるようお願い致します。
繰り返しますが、義歯（入れ歯）はあなたの身体の一部です。
使い始めは辛いと思いますが、義歯に慣れるように努力しましょう。
歯茎がただれたら、入れ歯を外して歯茎を休ませて下さい。
常に清潔に保つ
義歯（入れ歯）は菌がたくさんいるお口の中で使用しているものですので、こまめに歯ブラシでしっかり洗浄し、入れ歯は常に清潔に保って下さい。 不潔な義歯（入れ歯）は、口臭の悪化および口内のただれの原因となります。 義歯を清潔に扱わないと、口腔環境の悪化を招くだけでなく、全身にも悪影響を及ぼし、誤嚥性肺炎や最悪の場合歯肉ガンなどにも関与してくるとも報告されています。正しい保管方法
義歯（入れ歯）は乾燥に弱く、乾燥してしまうと義歯の形状のねじれやゆがみが起きやすくなり、お口にフィットしなくなってしまうこともあります。 お口から外している間は、水中にて保管するようにしましょう（ふたのついたタッパなどが便利です）。修理
少しだけ口にフィットしないからと、ご自身で調整しないで下さい。義歯（入れ歯）が余計合わなくなってしまいますので、面倒でも歯科医院で調整するようにしましょう。 入れ歯の形状などを調整するためには、歯茎の状態に応じたプロによる調整が必要となります。 歯を抜いた部分は術後6ヶ月間ほど歯茎がやせ続けるため、この時期に歯茎などの治療が必要です。 また、入れ歯は歯茎がやせるのに伴いガタついてきが大きくなってきますので、定期的な調整が必要となります。
精密入れ歯の特徴の比較
- 保険対象の義歯
- 保険診療範囲内で作製可能な入れ歯です。
レジンと呼ばれる歯科用のプラスチック製の入れ歯です。
通常の使用に関して問題はありませんが、若干厚みがあります。
【メリット】
・ほとんどの症例へ適用可能である。
・保険適用であるため安価である。
【デメリット】
・噛む力が低い(天然の歯の約10～20％)
・調整が複数回である必要。
・装着時の保持力が弱い。
・耐用年数が短い（３年程度）
- 金属床 デンチャー
- 保険適用の入れ歯に比べてより薄く、丈夫に作ることができます。
また、金属が熱を伝えるため、食事の味をより感じることができます。
【メリット】
適用症例が広い範囲に及んでいる。
高い親和性を示しアレルギーが少ない。
金属床義歯の中でも最も堅牢である。
発音しやすく会話に不自由さを感じさせない。
【デメリット】
・保険適用外のため費用がかかる。
・高価である。
- マグネットデンチャー
- 歯の根っこには磁石を吸着させる金属（キーパー）を接着し、入れ歯には磁石を埋め込みます。
使用するのは小型磁石ですが、強力な吸着力がありますので、安定性が高く、入れ歯がずれたり、外れたりすることがなくなります。
また、一般的な入れ歯のようにクラスプ（留め具）が付いていませんので、入れ歯を付けているようには見えません。
他の入れ歯と比べると、極力小さく作製することができるので普段の生活に負担が掛かりづらいです。
【メリット】
・生体用シリコーンという柔らかい素材であるため痛みが少ない。
・吸着性が強く、装着時の保持力が高い。
・適用症例が広い範囲に及んでいる。
【デメリット】
・保険適用外のため費用がかかる。
・素材が柔らかいため、噛む力が少し劣る。
・定期的な調整が必要。
- ノンクラスプ デンチャー
- 特殊な樹脂素材を使った金属のバネのない入れ歯です。
装着していても、人に気づかれることはほとんどありません。厚みも薄く作ることができ、装着感が良く、ソフトな噛み心地が得られます。
金属アレルギーのある方、見た目を気にする方のおすすめの入れ歯です。
【メリット】
・着脱が簡単で手入れが容易。
・金属ワイヤーが見えない。
【デメリット】
・修理が不能の場合がある。
- ポールアタッチメントデンチャー
- インプラントを打ち込み、その上部にクーゲルホックというボールアタッチメントとします。
義歯側にフィメールを埋め込み、物理的に装着する義歯です。
経年劣化してきたらフィメールを取り換えることによって、再度しっかりした装着を得られます。
【メリット】
・コンパクトで薄く、着脱が容易。
・雑菌が付着しにくいため、口腔ケアも容易。
・フィット感が良い。
・堅牢である。
・発音しやすく会話に不自由さを感じさせない。
【デメリット】
・保険適用外のため費用がかかる。
・適用ケースが限定的である。
・残っている歯を削る必要がある。
・治療技術や手間がかかる。